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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5983号 判決 1980年8月14日

原告 昭南電気株式会社

右代表者代表取締役 阪西昂

右訴訟代理人弁護士 久保義雄

被告 株式会社三井銀行

右代表者代表取締役 小山五郎

右訴訟代理人弁護士 原井龍一郎

右同 矢代勝

主文

原告の主位的請求を棄却する。

訴外オリエント設備工業株式会社が、訴外栗原工業株式会社に対して有する摂津市立第三中学校電気工事請負代金債権一、四五七万円のうち、残金一、一五七万円の債権を、昭和五一年三月二九日に被告に譲渡した行為は、これを取消す。

被告は、原告に対し金一、一四四万七、六〇四円及びこれに対する昭和五二年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の予備的請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

一、左記の各事実は、いずれも当事者間に争がなかった。

1.昭和五〇年九月、摂津市は、同市立第三中学校の建設工事を訴外株式会社浅沼組に請け負わせ、同会社は、訴外栗原工業株式会社(以下「栗原工業」という。)にこれを下請負わせ、同会社は、同年一一月訴外オリエント設備工業株式会社(以下「オリエント」という。)に右建設工事のうち電気関係設備工事を報酬金一、四五七万円の約束で下請負させた。

2.しかるところオリエントは、昭和五一年三月二九日被告(玉造支店)に対し、当時栗原工業に対して有していた上記下請工事の施行に基く報酬金全額一、一五七万円の債権を譲渡し、被告は、昭和五二年六月一〇日栗原工業から右譲受債権の内金一、一四四万七、六〇四円の支払を受けた(不足額の一二万二、三九六円は、栗原からオリエントに対して有していた反対債権をもって相殺されたので、被告において支払を受けることができなかったものである。)。

二、原告は、次のとおり述べた。

1.(主位的請求)

原告は、オリエントから栗原工業に対する上記下請負代金一、一五七万円の債権を被告の譲受に先だつ昭和五一年三月二五日をもって譲り受けたものであり、かつ右債権譲渡については、オリエントが債務者の栗原工業に対し同年四月一二日到達した同月一〇日の確定日附のある証書をもって通知済である。

被告は、上記債権の譲受をもって原告に対抗し得るものでない。

(一)栗原工業に対する右債権譲渡の通知は、譲渡人でなく譲受人の被告からなされており、かかる通知が債権譲渡に対抗要件を具備させるものでないことはもちろんである。

(二)債務者の栗原工業は、昭和五一年四月八日の確定日附のある公正証書をもって右債権譲渡を承諾したかのようであるが、右証書には方式上の欠陥がある。公証人が私署証書に確定日附を附するには、確定日附簿に署名者の氏名及び件名を記載し、その証書に登簿番号を記入して帳簿及び証書に日附ある印章を押捺し、かつその印章で帳簿と証書とに割印をすることも要する(民法施行法第六条第一項)ところ、栗原工業の承諾証書は、被告からの債権譲渡通知書と同一の紙片に記載され、債権譲渡通知書に相当する紙面には右登簿番号の記載と割印がされているが、承諾書に相当する紙面には右記載と割引がないのであるから、右承諾証書には確定日附が附されていないとみるのが正しい。

(三)また、栗原工業のなした債権譲渡に対する承諾には、「オリエントの下請人その他に対する支払義務ありとすれば、その履行並びにその他同会社との間における当社の一切の権利行使は当社の自由とする。」との留保がつけられており、譲受債権の支払を得られるか否かは債務者たる栗原工業のみにかかっているものであり、かかる承諾は、民法一三四条により無効である。仮りに同条を援用することが相当でないとしても、右承諾は、債権譲受人にとり不安定なもので、譲受人から請求し得る目的債権の具体的、確定的内容を明らかにしていないのであるから無効といわなければならない。

2.(予備的請求)

原告は、電気機械器具、工事材料の販売、設備等を業とするもので、オリエントから注文を受け、昭和五〇年一二月二二日、同会社がさきに栗原工業から請け負っていた摂津市立第三中学校の電気工事一切を報酬金九五〇万円で下請負人としてなすことを約し、さらに同月二六日報酬金三五〇万円で右の追加工事をなすことを約し、同月二二日に該工事に着手し、翌年三月一五日に完成させたが、追加工事が報酬金二九九万九、〇〇〇円相当分で済んだため、原審は、オリエントに対し、金一、二四九万九、〇〇〇円の報酬債権を有することとなった。

ところでオリエントは、取引先の三重養鰻プラント株式会社から振出、交付を受けていた金額二、〇〇〇万円の手形が昭和五〇年九月二〇日の満期日に支払われなかったことから資金不足を来たし不動産等の見るべき財産もないので、昭和五一年二月二三日被告への債務の担保としてはオリエントの代表者の妻吉田幸子所有の土地建物に極度額一、五〇〇万円の後順位の根抵当権を設定するほかなかったものであり、さらに、昭和五一年四月初めには自己振出の手形を不渡にせざるを得なかった状態で、本件債権を被告に譲渡した当時は無資力に近い状態であった。そして栗原工業に対しては本件債権を有していたわけであるが、同会社から請け負っていた電気工事の一切を原告の下請に出したことから、自らの仲介手数料相当分を除いた残余は、すべて原告に支払われるべきものであった。

右の次第で、オリエントは、被告に対して本件債権を譲り渡した際これにより原告が下請負代金債権の支払を受けられなくなることを熟知したものであり、被告も、本件債権を譲り受けた当時、オリエントの支払能力が極端に乏しかったこと、同会社から右債権を譲り受けると、その支払金から下請代金を支払ってもらう期待がはずれて困る原告のような下請業者がいることを当然知っていたもので、右債権譲渡は、オリエント、被告間の通謀によるものである。

よって右債権譲渡は、民法第四二四条により取消さるべきものであり、被告は、右取消に基く原状回復に代わる損害の賠償として、原告に対し該債権の支払として取得した金額とこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定年五分の率による遅延損害金を支払う義務がある。

三、そこで原告は

1.主位的請求として、

訴外オリエント設備工業株式会社が訴外栗原工業株式会社に対し昭和五〇年一一月下請負契約に基き有していた報酬金一、一五七万円の債権は、現に原告に帰属していることを確認する。

との判決を求める旨申し立て、

2.予備的請求として、昭和五一年一一月二七日送達の訴状に基き、

主文第二項と同旨。

ならびに

被告は、原告に対し金一、一四四万七、六〇四円及びこれに対する昭和五一年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

との判決と右金員支払を命ずる部分にかかる仮執行の宣言を求める旨申し立てた。

四、被告は、

原告の請求をいずれも棄却する。

との判決を求め、

次のとおり述べた。

1.原告がオリエントから栗原工業に対する下請負代金債権を譲り受けたこと、栗原工業に対し右債権譲渡の通知がなされたことは、いずれも知らない。

2.原告がその主張の業種を営み、その主張のようにオリエントとの間で電気工事下請負契約を締結し、右契約に基く仕事をなして同会社に対し報酬金債権を有するに至ったことは、いずれも知らない。オリエントが昭和五一年四月初めに自己振出の手形を不渡にしたことは、これを認めるが、同会社が被告に本件債権を譲渡した当時原告の主張するように無資力であったことは、知らない。被告は、オリエントから右債権を譲り受けるに当り右によって同会社の債権者を害するであろうとは全く知らなかったものである。原告の予備的請求も、理由がない。

五、証拠<省略>

理由

一、オリエントが栗原工業の注文を受けて昭和五〇年一一月摂津市立第三中学校の電気工事を請け負い(下請負契約)同会社に対し昭和五一年三月下旬現在一、一五七万円の報酬金債権を有していたことは、当事者間に争いがない。原告はオリエントから同月二五日付をもって譲り受けたと主張するが、右主張事実の立証はない。甲第九号証の一中のオリエント代表取締役吉田耕作作成名義部分、同第一〇号証および証人五影雄三の証言は、右主張にそうものであるが、同証人の証言中これらの書証(甲第九号証の一については右の一部)の成立と右主張事実を肯認する部分は、証人吉田耕作の証言と対比し、にわかに信用するを得ず、むしろ同証人の証言によれば、右各書証(甲第九号証の一については前示の一部)は、真正に成立したものでなく、オリエントから原告への右債権譲渡の事実が存在しないものと窺知するに十分である。

よって、右債権譲渡の事実の存在を前提とする原告の主位的請求は、理由がないものである。

二、次に、証人吉田耕作の証言により真正に成立したと認められる甲第一、第二号証の各一、二、証人五影雄三、同河渕登の各証言を総合すれば、原告は、電気機械器具、工事材料の販売、設備等を業とするもので、オリエントがさきに栗原工業から請け負っていた摂津市立第三中学校の電気工事に関し、オリエントとの間で昭和五〇年一二月二二日報酬金九五〇万円の下請負契約と同月二六日報酬金三五〇万円の追加工事請負契約を締結し、これらの契約に基き前示の工事に着手し、翌年三月一五日にこれを完成させたが、右工事に際し、原告においてオリエントに人手の応援を一時頼んだことから、最終的には金一、二四九万九、〇〇〇円の報酬金債権を同会社に対して有するに至ったことが認められ、右認定に反する証人吉田耕作の証言は前掲証拠に照らしにわかに措信し難い。

三、しかるところ、オリエントが昭和五一年三月二九日被告(玉造支店)に対し、当時栗原工業に対して有していた上記報酬金一、一五七万円の債権を譲渡したことは、当事者間に争がない。

次に、オリエントが右債権譲渡の直後である昭和五一年四月初めに自己振出の手形を不渡にしたことは、当事者間に争がなく、右事実に成立につき争のない甲第六号証、証人吉田耕作および同梶弘明の各証言を総合すれば、オリエントは、右債権譲渡当時一般債権者に対する引当てとなるべき積極財産としては当該報酬金債権以外に見るべきものがなく、著しく資金難で債務超過の状態にあったことが明らかである。

さらに、前掲甲第六号証のほか、成立についても争いのない甲第四、第五、第八号証、乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二、第七号証の一ないし一〇、第八号証、証人河渕登の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証、証人吉田耕作、同梶弘明、同児玉利孝の各証言(但し、一部)を総合すれば、次の事実を認定することができる。

被告は、オリエントに対し昭和四九年一〇月ころから融資を継続していたが、同会社には不動産等の固定資産がなかったため、その融資は、主として手形割引、手形貸付の形をとっていた。ところが、被告がオリエントから債務担保のため交付を受けていた訴外三重養鰻プラント株式会社の振出にかかる金額二、〇〇〇万円の約束手形が昭和五〇年一一月二五日の満期に支払われず不渡となったことから当時オリエントが被告に負う債務合計四、三七五万円のうち約金一、一〇〇万円が無担保となった。被告はオリエントに対し右手形の不渡後もこれを担保とした貸付金二、〇〇〇万円の支払いの猶予を与え、従前と同様取引を継続し、融資金額は、徐々に減少し、昭和五一年二月二八日現在で約二、八八〇万円、同年三月二六日現在で二、三九〇万五、一〇〇円となっていたが、前記の不足する担保に対する手当としては、昭和五一年一月二〇日にオリエントの代表者の自宅で妻名義となっている土地建物に順位四番の極度額一、五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、翌月二三日右に基く設定登記を経由したものの、右物件には、かなり高額の先順位抵当権が設定されており、充分な担保価値があるものとはいえなかった(現に、後日該物件の競売の結果被告が売得金から配当を受けることができた右根抵当権の被担保債権額は金二五四万円余にすぎなかった。)。しかも、被告がオリエントから担保として交付を受けていた六通、合計金額六一〇万円の手形が同年三月二五日の満期にすべて支払拒絶されてしまったことから、被告は、オリエントから交付を受けていた残余の合計金額五五六万円余の担保手形の支払の可能性のみならず、同社の支払能力についても、大きな疑問を抱き、おそくともこの時点では同社の無資力を察知していた。かくて右担保手形の不渡から数日を経ぬ同年三月二九日オリエントから被告に本件報酬金債権を既存および将来の債務の担保のために譲渡し、右債権の支払があった額だけ被告への債務の支払にあてられる旨合意したのである。

右認定に反する証人吉田耕作、同梶弘明、同児玉利孝の各証言部分は、措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

上記認定事実によれば、オリエントが原告を含む一般債権者を害することを知って本件報酬金債権を被告に譲渡したことは疑を容れないが、さらに被告も、オリエントの無資力の事情のほか、経済界の実情に明るい銀行として当該報酬金の性質上これからさらに支払を得ることを期待している原告のような下請業者が存在することを当然推知していたとみるべきであるから、右報酬金債権の譲受により一般債権者を害することを知っていたものであり、オリエントと被告との間にはこの点につき通謀があったと推認するに十分である。なお、成立につき争のない乙第七号証の六、証人梶弘明、同児玉利孝の各証言によれば、本件債権譲渡の後である昭和五一年四月一日に被告からオリエントに対し新規に金二四〇万円の手形貸付がなされていることが認められ、右時点におけるオリエントの支払能力に対する被告の信頼を推認させる如くである。しかし、右書証のほか成立について当事者間に争いない甲第八号証、乙第七号証の七、証人児玉利孝の証言によれば、右金二四〇万円の新規貸出と同一の認可番号、同一の取扱番号で同月二日に金八五万円、同月八日に金一五〇万円、同年五月四日に金五万円、合計金二四〇万円の入金がなされたこと、しかも、五月四日の入金五万円はオリエントの代表者吉田耕作個人から提供された定期預金からの入金であることが認められる。右事実によれば、四月一日の金二四〇万円の手形貸付は、被告がオリエントの支払能力を信頼して貸付けたのではなく、確実に換金可能な特別な担保物を引当てにしてごく短い期間の間の融資としてなされたものと充分推認でき、昭和五一年四月一日において被告がオリエントの支払能力を信頼し、その数日前の本件債権譲渡が原告の利益を害する詐害行為であったことを知らなかったとは認めることができない。

四、次に栗原工業は、昭和五二年六月一〇日被告に対しその譲受にかかる本件報酬金債権について、反対債権一二万二、三九六円と相殺のうえ、残余の金一、一四四万七、六〇四円を被告に支払ったことは、当事者間に争いがない。

五、以上によれば、原告の主位的請求は理由がないから棄却すべく、予備的請求のうち、民法第四二四条に基くオリエントから被告への本件報酬債権の譲渡行為の取消しと、右取消しによる原状回復に代わる損害賠償として被告に対し金一、一四四万七、六〇四円及びこれに対する昭和五二年六月一一日(被告が本件債権の支払いを受けた日の翌日)から支払済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、右金額に対する同年同月一〇日までの同率による金員は、その分の栗原工業に対する支払請求権が残存しておれば、詐害行為取消の結果オリエントに復帰するわけであるから、詐害行為の受益者たる被告に対するこの分の支払請求を失当として棄却することとし、なお訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条但書を適用し、本判決中の右損害金の支払いを命ずる部分に仮執行の宣言を付することは、本判決の確定による詐害行為取消の効力の発生に先立ち、右による原状回復の代償の実現を可能ならしめるものとして法律上許されないと解されるから、原告のこの点の申立を却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 戸根住夫 裁判官 新井慶有 裁判官大月妙子は、本件の審理及び評議に関与したが転任のため署名押印できない。裁判官 戸根住夫)

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